春合宿
メンバー:森田、大内、中嶋、入道、小林、椿尾、羽賀


H23.4/29〜5/6

ルート:池ノ谷隊 ー森田、小林、椿尾
    小窓尾根隊ー入道、羽賀
    途中合流 ー大内、中嶋

 今回の春合宿は三ノ窓を起点にしてチンネや八ツ峰を登ろうという計画で劔に向かった。
森田会長は新人2人、小林、椿尾を連れて池ノ谷から三ノ窓へ入り、八ツ峰を登り劔本峰を経て早月を下る予定。
入道、羽賀組は小窓尾根から入り劔尾根R4や八ツ峰等。
大内、中嶋は途中合流して、チンネ等の予定で入ったが…。

4/29
 AM4:30頃、馬場島に到着と思いきや、ゲートが閉まっており奥まで入れず。少し仮眠をして、5:30頃に馬場島荘にTelすると、歩いてきてくださいとの事。がっくりきながら40分程歩くと馬場島荘に到着。県警で計画書を提出して話を聞く。今年は雪が多いらしく、いつもなら落ちている所の雪が落ち切っていないらしい。昨日も上の方は雪が降ったみたいで、谷に入るのは危ないかなぁと言いつつ、取り敢えずは馬場島荘のコーヒーで一服。
 8:30準備をしていざ出発。
 白萩川沿いに一時間程歩き、橋を渡ったところで一本入れる。正面には木綿谷があり、雪が上の方まで続いている。来たなぁという感じだ。やはり雪山はいい!
 白萩川右岸を詰めて堰堤を越える。そこから先は雪渓歩きとなる。池ノ谷出合でもう一本。池ノ谷を見れば左右に切り立った崖が圧倒的に迫って来る。小林、椿尾の2人は「大丈夫かなぁ」と少し不安そう。ここで池ノ谷隊と別れ、入道、羽賀組は小窓尾根に取り付くべく雷岩を目指す。2人とも初めてなので判るかどうか心配だったが、結構大きな岩だったのと、先行パーティーのトレースもあったので問題なく見つける事が出来た。右手の急な雪壁を登り尾根に出たあと、そのまま1900m付近まで登る。ここで時間が14:00頃。ここからは少し急登になり2100m付近から核心に入るようなので、時間が早いけれどもテントを張る事にする。16:00に池ノ谷組と無線交信をする。池ノ谷ゴルジュの出口付近だろうかハング下の雪崩からは身を守れそうなところで幕営するらしい。この日はアルファー米にジフィーズのカレー。これからは当分カレー三昧だ。

4/30
 7:00出発。急登から始まる。先行Pのテント跡が残されており、綺麗に雪の斜面を削り取ってあった。なるほどこうするのかと勉強になる。登りきるとニードルがみえる。ここは右側から巻くように登り最後に斜め懸垂。続くドームはなるほど、ドームという名にふさわしく、どっしりとした巨岩が座っている。そこの右側の雪壁を登っていく。その先のマッチ箱あたりであろうか、二度ほどザイルをだす。この頃から雲行きが怪しくなり、風も強くなり、雷も遠くで鳴り出した。予報では明日5/1が荒れるとは覚悟していたが、山はやはり地上より早く崩れるようだ。 空全体を雲が覆っている。生と死の分岐点を読んでいたので、これは確実に雷の射程距離に入っているんだろうなぁと思いつつも、特に怖さは感じない。やはり知識として知ってはいても実際に打たれてみないと判らないのだろう。稜線上の為、特に逃げるところも見つからない。入道氏もそれ程気にしていないようだ。
 核心も越え、三ノ窓まであと少しかなというところで、風が強くなり雨脚も強くなってきたので、時間も早いがテントを張る事にする。少し大きな岩の横の斜面を整地してテントを張ろうとしている最中、丁度ポールをテントに通している時に、右胸から右手にかけて「ズシン」と衝撃が来る。「やられた!」と叫ぶ、入道氏も右手に「バチッ」ときたらしい。雷に打たれたのかなと思いつつ、体は動くので取り敢えずテントを張りましょうと、急いでテントを張って中に逃げ込む。当然その話で盛り上がる。入道氏は右手の衝撃だけだったらしい。羽賀は右胸から右手にかけての範囲に衝撃を受け、一瞬目の前が暗くなった。しかし、落雷時の「ドーン」という音も聞いていないし、周りには2人パーティーが2組。同じようにテントを張っていたがその人たちには何もなかったようだ。辺りで一番背が高いのは岩で、その岩に一番近かったのが我々2人。その岩を経由して感電したのだろうか。しかし右利きで良かったと思う。
 無線交信で池ノ谷組と連絡をとる。池ノ谷組は池ノ谷から撤退し早月尾根に変更、1600mあたりで幕営という事だ。後日聞いたところでは、今朝出発してすぐに右前方で雪崩が発生。目前30m程の所まで迫ったらしく、即撤退となったそうだ。

5/1
 6:00に無線を飛ばす。会長達は朝一で早月小屋に向かうとの事、こちらは天候が悪化するだろうという事で停滞とする。相変わらず風が強く、会長からは、これから天気は悪化の一途を辿るから雪洞を掘って逃げ込んだ方が良いだろうと返事をもらう。なので早速雪洞を掘る事にする。最初はブロックをテント周りに積もうかと言っていたが、雪洞が掘れそうな良いところがあったので、掘る事にした。取り敢えず20分交代でいこうとしたが、掘り出すとこれが結構楽しく、しかも20分ではたいして進まずもったいないので2時間程掘り続け、無線交信時に交代した。入道氏は3時間程掘り続けテントごと入る大きさの雪洞が完成する。さあ引っ越すぞという段階で羽賀のヘルメットが無くなっているのに気付く。昨夜の風で持っていかれてしまったようだ。入道氏は雪洞掘りに夢中になり、親指の皮と手袋を両方破ってしまっていた。この日は1日中風が強く、夜になり大雨が降り、そして雪になる。

5/2
 この日の朝方は非常に寒かった。分厚いシュラフも湿っており寒さで目が覚める。外に出れば、少しガスが掛っているが風はそれ程強くなく、天気は良くなりそうだ。
 三ノ窓への稜線は、一ヵ所、左下へ降りていく所だけガスが晴れるのを待って確認する。アップダウンを続けると、目の前に「ドーン!」と小窓の王が聳え立つ。なんというか、シロナガスクジラだっただろうか。あの大きなクジラが海面からジャンプしている写真を以前見たことがあるが、そんな感じだ。今回は無理だが、夏になったら登ってみたいなと思う。前回は電池切れで撮れないのを悔んだが、今回はカメラが濡れて壊れたらしく、またまた写真をとれないのが惜しい。
 小窓の王の基部をクライムダウンして最後はザイルを出してトラバース。漸く三ノ窓に到着。チンネ側の岩壁の基部の少しハングした所にテントを張り、ここで入道氏と別れる。今回は羽賀が小窓尾根でやられ気味でこれ以降の登攀意欲が余りなさそうなのを見て、帰る事を決められたようだ。申し訳ない。この後、入道氏は池ノ谷を登り、稜線伝いに劔本峰へ、そこで森田会長達と合流して馬場島へ無事下山する。小林、椿尾両氏も無事に本峰に登れ、天気も良かったと思うので、劔を満喫出来たのではないかとおもう。こちらといえば道具を乾かしにかかる。しかし今一つ日当たりが良くないので余り乾かず、明日もう一度引っ越しをしようと決める。今日は久しぶりの一人寝。周りには人っ子一人いない。この世界を一人占め。これはこれでまた良し。

5/3
 朝はやはりガスが掛る。早速引っ越しを始める。三ノ窓のコルから三ノ窓雪渓側に少し降りたところの斜面を削り、平坦にしてテントを移す。太陽が真正面にあるから日当たり最高。のんびり後立山を眺める。そういえば以前会長が「三ノ窓にしこたま酒を持ち上げてのんびりしたい」と言われてたのを思い出す。確かにこれはいい。ぽかぽか陽気で景色も抜群。酒があれば最高だ!故に、今回池ノ谷を通れないのがすこぶる残念。
 今日は大内さんと中嶋さんが入ってくる予定だ。10:00頃に大内さんの声が聴こえる。長次郎の頭の辺りにいたらしい。それから待てど暮らせどなかなか降りてこられないので心配していると、14:00頃「おーい」と聴こえる。入口を開けるとチンネ左稜線の取付き方向に人がいる。靴を履いて準備して外に出ると風が強く雪も降っている。朝の快晴が嘘のよう。大内さんの姿もかき消されていたが、方向を定めて歩いて行くと、ビンゴ! 漸く合流する事が出来た。ザックを受け取り、テントに戻る。池ノ谷を降りようとしたが、雪が腐っていて危険を感じたのでチンネ側のガリーを一旦下り、三ノ窓雪渓に出て、トラバース気味に登り返してきたそうだ。時間が掛っていたので少し心配していたが無事でよかった。
 そのすぐ後に、いとこを含むベルニナ山岳会の方々3名も到着。八ツ峰を越えてきたのだが、雪は多く、天候は悪いわで、かなり厳しかったみたいだ。明日には三ノ窓から下山なので、ゆっくり話をする時間がなかったが、いつかゆっくりとお酒を呑みながら山の話なんかをしたいものだ。
 中嶋さんとの無線交信では今日は早月小屋に泊まり、明日、三ノ窓に入る事に決まる。
 入山5日目、今まで毎日カレーかラーメンだったのが、この日は大内さんのスパゲッティーを頂く。ホワイトソースのシチューパスタをかき込み、トマトソースのパスタをかき込み、大内さんがあまり美味しくないからと残されたトマトソースのパスタまでかき込み、デザートにはドライフルーツを入れたフルーチェをかき込む。まさに欠食児童ならぬ欠食兄貴ここにあり、である。

5/4
 この日は大内さんが下山。さすがにここから室堂経由で大阪まで一日で、しかも一人で車を運転して帰るのはしんどいだろうという事で、一日余裕を持って降りる事にされた。本峰経由ということなので頂上までお伴をする事にする。道具を少し担いで9:00頃出発。朝の池ノ谷はしっかり凍っているので、所々フロントポインティングでガシガシ登っていく。ここも1ミスが命取り。アッという間に超巨大天然滑り台と化す。なので、重荷を背負っての登下降はあまりしたくないというのが正直なところだ。池ノ谷乗越からは右手の稜線上を本峰まで、足跡が残っている。長次郎の頭で中嶋さんと出会う。ここからは長次郎谷が見える。八ツ峰の側壁七峰八峰辺りだろうか、大きく切れ目のの入った、今にも崩れ落ちそうな雪がそこここにぶら下がっている。その少し下には八ツ峰の上半部を登ろうと五・六のコルへ向かっている人達、池ノ谷乗越から長次郎谷を滑り降りようとするスノーボーダー達がいる。見ていると少し心配になる光景だが、まぁやっている事は自分達とたいして変わらないかと思うと、崩れませんようにと祈るのみ。
 今日は本当に天気が良い。本峰に着くと20人程だろうか、源次郎尾根から上がって来る人、スキーヤー、スノーボーダー、等。劔沢にもテントがいくつか見えるが、例年よりは少ないらしい。記念写真を撮りここで大内さんと別れ、テントへと帰る。

5/5
 6:00出発。三ノ窓雪渓を下り、劔沢を登り返し、キャンプ場までとする。
朝一は雪も締まっており雪崩は大丈夫かなと下り始める。左右の壁にも引っ掛っている雪は余り見当たらない。しかし、下に行けば行くほどやはり雪崩の跡があり、あまり気持ちのいいものではない。漸く劔沢に合流、今度は劔沢キャンプ場までの登りだ。右手に八ツ峰の一峰があり支尾根が4つ程伸びている。ここを登るのは結構てこずるらしい。真砂沢ロッジといえば夏に八ツ峰を登った時にベースにしたところだが、今は全てが雪の下。おもしろいものだ。ロッジのすぐ下にはデブリがでていて結構新しめだ。雪崩の跡は結局平蔵谷から真砂沢ロッジまでずーっと続いていた。相当大きな雪崩が起こったんだなぁと、見れなかったのが少し残念に思えるくらいの規模だ。平蔵谷の出合には雪崩の跡があり、高さ2m超のデブリが残っている。規模の大きさがうかがい知れる。そういえば大内さんもこんなのは初めて見たと言われてたのを思い出す。
さあキャンプ場まであと少しと思うが、行けども行けどもなかなか着かず、最後はへとへとになって辿りつく。なので剣山荘には中嶋さんがビールを買いに行ってくださった。その間にこちらはせっせと水作り。この時のビールは最高に美味かった。目の前には劔が。チンネ登攀のパートナーを務められなかったので、まともな登攀を出来なかった中嶋さんには申し訳ないなと思いつつ、来て良かったとつくづく思う。

5/6
 今日は下山日。本峰迄の登りと早月尾根の長い下りが待っている。
劔の頂上は二度ほど登ったが別山尾根からはまだ登った事がなく今回が初めて。カニの縦ばいや横ばいを鎖につかまって登っていく。横ばいは足元がすっぱり切れていて落ちたら助からないだろうなと思いつつ、鎖をしっかり掴んでいれば問題はなし。早月尾根との合流点で上から3人パーティーが降りてくる。何処からですかと尋ねると、五竜から黒部を横断してきたとの事。いつか行きたいなぁと思うコースだ。頂上はしんどかったので割愛して、ここから早月尾根を下りていく。今日も天気が良くトレースもしっかりついているので特に問題はないが、厳冬期に吹雪かれるとどうしようもなくなると聞いている。感覚的には右手へ降りていく感じではあるが、ホワイトアウトの状態で下山するのはまさに命がけだなと思う。しかし劔の厳冬期の登頂はやらねばならぬ。登ってみたい。その先へ行く為にも。

 今回の春合宿では池ノ谷が通れず、三ノ窓をベースにしてという当初の計画が大きく変わり、各人の満足不満足は色々あると思う。私自身についていえば、あれも登ろうこれも登ろうと、大風呂敷を広げた感があるが、結局出来た事と言えば小窓尾根くらいのもの。自分の精神的な部分の弱さをまざまざと見せつけられた気がする山行であった。一週間以上山に籠るという事がどういう事なのか、今回も沢山勉強させられた。来年にはもっと良い山行が出来るように精進したいと思う。

 文章/羽賀