平成23年2月11日〜13日 鋸岳縦走
メンバー/岡、清家、中嶋、羽賀L

 以前から行ってみたいと思っていた鋸岳。名前からして、ギザギザの険しい岩稜なんだろうなぁと、想像ばかりが膨らんでいた。森田会長にも、鋸に行くなら冬が良いよ、と言われていたので、今回、甲斐駒迄の縦走を計画して入山した。

コース予定:戸台P〜角兵衛沢出合〜角兵衛沢のコル〜鋸岳頂上(第一高点)〜第三、第二高点〜中ノ川乗越〜六合目小屋〜甲斐駒ケ岳〜北沢峠〜戸台P

10日夜、京都発。途中の道の駅で仮眠をとる。

11日 6:50戸台P発→8:30角兵衛沢出合→14:00角兵衛沢のコル テント泊

 6時過ぎに戸台Pに到着。準備をして7時前に出発。天気は雪。まあ冬はこうでなくては。広々とした河原をてくてくと歩いて行く。
 8:30に角兵衛沢出合着。山側の踏み跡を辿っていると看板を見落とすらしいので今回は河原を歩いて来た。ここから2,550mの角兵衛沢のコルまでの登りに入る。下部の樹林帯は落葉の上にさらさらの粉雪が積もっており、やたらと滑り、歩き難い事この上ない。だからといってアイゼンを付ける気には全くならない。ここは我慢だ。2時間半程で漸く岩壁にぶち当たる。右手にテントを張れそうな所が見える。どうやらここが大岩下ノ岩小屋らしい。確認しようと思ったが、ラッセルもあるため面倒に感じ、そのまま素通り、左上する。岩壁を回り込み角兵衛沢を詰める。広い沢で、雪の下はガレだ。雪は相変わらず柔らかいのでガレ場を登っているのと大差なし。ずるずる滑ってやはり歩き難い事この上ない。ここも我慢だ。右手のハングした崖下を過ぎれば、今度は左手に崖。そこを過ぎれば、右手にルンゼと滝を見つける。凍っているので登れるのかなぁ、等と話しながらやり過ごし、そのまま左上する。
 2,300m辺りだろうか、弱層を発見。15p程の新雪の下に3、4p程の雪の層があり、さらにその下に柔らかい雪がある。なるほど、これが弱層かぁと思うと同時に不味いなぁと。しかし、横に逃げるのは余り良くないと思い、取り敢えず左上へラインをずらしにかかる。雪が浅くなり、弱層も消える。後続はどうか?ちょくちょく振り返りながら、登り続ける。後続も無事越えたようで一安心。上を見ると漸くコルが見え始める。あと一息だ。
 14:00、コルに到着。テント場は右手の岩壁の下に決め、早速入り込み、コーヒーで温まる。行動食の残りをつまみながら焼酎を飲む。夕餉はおでんに、カレー春雨とアルファー米。夜半から風が強く吹き始める。

12日 停滞

 4:30起床。ラーメンと雑炊で朝食をすませる。テントの中では風は相変わらず強いように感じる。6:30、偵察も兼ねトイレに出る。風はそこそこ強し。視界はそれ程問題なし。予報は太平洋側の低気圧が三陸沖に抜け強い冬型になるとの事。もう少し様子見にする。期限は10時迄。11時発で15時中ノ川乗越を最終ラインとして待つ。10時、再度外へ偵察に出る。風は変わらず、視界が悪くなっていた。突っ込んで行けない事もないが、明日は天気が回復する予報だったので、今日は停滞とする。この時点で甲斐駒を放棄、熊ノ穴沢を下降する事に決定。

13日 7:00発→9:00鹿窓→11:40第二高点→14:20熊ノ穴沢出合→戸台P→京都

 4:30起床。一晩中風が強く、朝になっても弱まる気配はなかった。しかし天気は西高東低の冬型なので太平洋側は晴れの予報。そのまま出発の準備に入る。外に出てテントを撤収。風が強いので一苦労だ。南の空に青空が見える。回復に向かっているのだろうか。
 7:00、取り敢えず第一高点目指して登っていく。一昨日から降りだした雪の為、コルには雪庇が張りだしている。左側に注意して、草付きであろう雪面を登っていく。頂上付近は岩。特に難しい所はなし。鋸岳の頂上に来ると風は強いが天気は晴れ。これなら行けるだろうという事で、先に進む事にする。小ギャップへの下りは稜線を左の方へ降りて行く。少し行くと鎖が出てきて、最後の数mを懸垂で下りる。登り返しは3m程左上しすぐに右上へ切り返す。木登りを交えて稜線へ。右下に鎖が伸びており、そちらからも登れたようだ。稜線に出れば右手へ。岩稜を10m程進む。ここは右側の足下がすっぱり切れ落ちていて、墜ちれば助からないだろうなぁ、と思いながら進む。ここも難しくはない。岩壁にぶち当たったら、左手のガリーを3m程下り、木と木の間をトラバース気味に登っていくと鹿窓だ。(9:00)ぽっかりと大穴が空いており間違いようがない。冬はその左手から登っていく。雪が深いので先頭はラッセルが大変そうだ。少しのアップダウンを交えて第三高点へ。
 大ギャップへはやはり左手から降りて行く。急になって来たなという所にちょうど木がある。残置スリングが一本。これは違うなと思い先へ進もうとすると、雪の表面が流れていく。これはマズイという事で、その木で懸垂しながら、大ギャップの真上にあるという支点を探しに行く事にする。左下へ懸垂していくとY字型の灌木にフィックスロープが垂れている。此処だなと思い、一旦切る。トポでは20mの懸垂とあったので50m一本で十分と思い、そこからまた懸垂をする。ふと左を見ると大ギャップがある。これはインターネットで調べた山行記録と同じシチュエーションではないか。下を見ると雪面はまだまだ下の方にある。ザイルの末端を探るとあと5m程しかない。なのでまず自己脱出時のザイルの固定をやり、結んでいなかったザイルの末端を結び、その後スリングの長短を各一本ずつ使い、右上のテラス迄登り返した。これまで何度かセルフレスキューの練習や講習を受けてきたが、今回、自然と手が動いたので、意外と身に付いているんだなぁと感じた。右上のテラスで一旦切り、もう一度懸垂をする。25mぎりぎりで急なガリーに降り立つ。ここからガリーを大ギャップまで登り返す。雪が深く、目の前の雪を落とし踏み固めて少しずつ体を上げていく。やたらと楽しい。大ギャップに来ると上からフィックスが垂れている。という事は、懸垂はもっとトラバースをしてから、ということのようだ。次に来る人は気をつけてほしい。
 大ギャップの右手のガリーを下って行き左手の岩壁を大きく巻く。灌木の生えた尾根に登り、尾根伝いに登っていけば第二高点だ。(11:40)天気は快晴。甲斐駒も良く見える。来てよかったと思う瞬間だ。少し休憩してから下りにかかる。またまた左手へ降りていく。雪の付いているところを選んで降りれば楽だ。降りたところが中ノ川乗越。テントを張るにはこっちの方が広くてよさそうだ。
 熊ノ穴沢は決定版雪崩学の雪崩事故一覧にも載っており、雪崩が少し心配だったが、無事に降りる事が出来た。途中、雪面に大きくて長いひびが入っていたりしたが、大丈夫だった。そして此処の下りも歩き難かった。途中でアイゼンを外して下り始めるが、何度転んだ事か。鋸岳の核心はこの二つの沢の登り降りにあるのではないかと思うのは私だけだろうか。

 今回の山行で一番気になっていたのは雪崩であった。入山前日まで晴れており、入山日から二日間雪が降った。当然弱層が形成され、その上に積もった雪が人の侵入により雪崩れるのだろうと思っていたが、意外に雪崩ない。まだまだ雪に関しては知識も経験も足りていない。少しずつではあるがそれらを増やしていき、より正確に見極められるようになりたいと思う。

 文章/羽賀