2014315日〜16日 上高地中仙丈沢アイスクライミング
メンバー:崎間L、上田

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15()
釜トンネルを抜けて大きく右へ曲がると、池の向こうに穂高連峰がそびえていた。大正池のほとりに幕営装備をデポし、中千丈沢へ向かった。

10cm程の新雪の下にうっすら先週末のもの思われるトレースが見える。

今日は我々が一番乗りのようだ。アプローチの核心は、ルンゼを右岸の尾根から大きく巻く部分。急傾斜なのでふくらはぎがパンプした。


(崎間)も上田さんも1ヶ月半ぶりのアイスなので、まずは優し目のマルチピッチを登ろうと、(私がミルキーウェイと勘違いして)コメット(2ピッチ,IIIIV-, IIIIV-)に取り付いた。

ミルキーウェイと思っていたので3ピッチに切り、崎間、上田さん、崎間の順でリードした。傾斜はゆるく簡単だが下部は氷が薄い部分もあった。懸垂2回で下降。


上部へ登りながら(本物の)ミルキーウェイ、Z、一角獣、ジョーズと氷瀑の様子を伺い、ジョーズ左(IV+)にトライすることにした。

ジョーズ取付きまではII級くらいのフリーソロとなり少々緊張した。

ジョーズエリアは、幅広い氷瀑の中央上部と中央右下部に氷が付いていない部分があり、岩が黒く覗いていて、氷の歯を持つジョーズの口みたいになっている。

私はその口の左ラインに取り付いた。4mくらい登ると早くも前腕に張りを感じた。アックスを振る毎に氷の破片が虚しく飛び散る。先ほど打ったスクリューは足元だ。

先月、大峰でフォールした記憶が蘇る。また落ちたらどうしよう。そもそも私はなぜこんな危険な場所にいるのだろうか。頭の中が恐怖で一杯になってはもう登れない。

私はクライムダウンし、2本目のスクリューにテンションして一旦降りた。

その後仕切り直して、テンション掛けながらなんとかトップアウト。トップロープをセットし上田さんと交代で登った。

夕暮れに追われるように下山。行きで右岸に巻いたルンゼは、帰りは懸垂で降りられた。二人降りきったところで日没。

テントで乾杯し夕食のすき焼きをつついていると、外から足音が聞こえた。時刻は20:00になろうとしている。

不信感を募らせながら聞き耳を立てると「Hello... Hello! Can you help me!?」と男性の声。

外に出て話してみると、彼はドイツ人で、観光のために上高地へやって来たらしい。

歳は20台前半くらいだろうか。「暗いし人が居ないし怖いから、隣にテント張っても良いか?」というようなことを言っていた。

私は「良いと思います」と返答しておいた。

 


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16() 曇のち雪
少し霞がかった夜明け。焼岳を間近に望む。出発準備をしていると、隣のドイツ人(名前を教えてもらったが忘れた)もテントを撤収し、出発しようとしていた。

挨拶を交わしたついでに彼から質問がきた。「上高地には週末は人が沢山あつまるんだろう?この先(小梨平方面)にホテルとかどこか暖かい場所は無いか?」というようなことを言っていた。

私は「たぶん無いと思います」と返答しておいた。


話をアイスクライミングに戻すと、この日我々はジョーズよりもさらに上部の達磨アイス(IIIII+)からクライミングを開始した。

まず、上田さんがリードでIII級くらいのラインを小気味良くのぼった上田さんは実質これがアイス初リードだが実に安定したクライミングだった。

トップロープを張ってもらい、各々計2本登った。達磨アイスは広々していて足場も安定しており快適だった。
続いて、さらに上部の鷹の爪(IV+V)へ向かった。25m程の氷の鷹の爪という趣。取付きは雪が深い所があった。

いろいろラインが選べるので、弱点を突いて(つまり最も簡単そうなところを)崎間がリード。

昨日と違って調子が良く、オンサイト成功。爽快だ。生きているって素晴らしい。

この瞬間のために私はこんな場所に来たのだろう。上田さんもトップロープでスクリューを回収しつつノーテンでトップアウトした。

私はもう1本、トップロープでV級くらいのラインを登った。蹴り込みが甘かったのか3回くらい足ブラになってしまった。一応ノーテン。
次は一角獣の1ピッチ目(IV-)。上田さんが果敢にリード。慎重かつ思い切り良く登って問題なくオンサイト。ビレイ点となる木までは意外と遠く、50mロープほぼ一杯だった。

折れ曲がったルンゼ状地形のせいか、声も通りにくかった。崎間がフォロー回収し懸垂で下降。
最後にZ1ピッチ目(IV+)を登った。“Z”の字が串刺しになったような特徴的な外観だ。

このルート、私は昨年取り付いた経験があるものの、下部2mで敗退している。今年こそは、と気負って望んだ。凹角をステミングで登ると随分楽できて、無事にレッドポイントできた。

ただ、ビレイ点となる木がすごく右側にあるので、“Z”の字の下の横線をラッセルしつつトラバースすることになりここが一番怖かった。

上田さんにフォローで回収してもらい、今シーズンのアイスクライミングを締めくくった。なお、この2日間、中千丈沢は我々以外誰もおらず貸切状態だった。

時間
315日:草津PA(集合)4:30→釜トンネル入口8:40大正池9:40/10:30→アイスエリア11:30/18:00大正池18:30
316日:大正池7:00→アイスエリア8:00/13:40大正池14:20/15:00→中の湯釜トンネル入口15:40→草津PA(解散)20:45

装備
50mダブルロープ×2、スクリュー×10、ヌンチャク適量、スリング適量、等。

備忘録
・トポはROCK & SNOW 46号。
・雪は締まっておりワカンは不要だった。所々にデブリがあった。
・ビレイ点はすべて木から取った。長い(180cm以上の)スリングが便利。
Z1ピッチ目で懸垂するとロープが木に引っかかりやすい(回収時に引っかかった)

文章/崎間