八ヶ岳東面・旭岳東稜(2015/3/2022

メンバー/中嶋、檜垣、小林

 

今期3回目の八ヶ岳。1月の石尊稜は厳冬期らしい悪天だったが、予定通り完登し、冬のアルパインを堪能した。

2月の中山尾根・小同心クラックは厳冬期とは思えないほどの好天で一日に2本登ることが出来た。

さて、今回の旭岳東稜は生まれて初めての八ヶ岳東面。核心の「五段の宮」はかなり難しいらしいが、中嶋さんがリードしてくれることになっている。

天気予報も3日間ともばっちりなので、余裕しゃくしゃくで出発〜。

 

3/20()

6:00新大阪

10:22 清里駅

11:00 美し森駐車場出発

15:20 出合小屋

いつもの始発の新幹線で出発。東面は山梨まで行かねばならない。駅弁など食べて、旅行気分。

名古屋から特急しなの、塩尻からあずさで小淵沢、そこから2両編成のかわいい小海線に乗って清里まで。

夏は避暑地として観光客で賑わうらしい駅前も閑散としている。

タクシープールで待っていたタクシーに乗り、10分ほどで美し森駐車場に着く(料金1090円)。

帰り用に電話番号を聞いておく。冬は営業していないので、自販機の後ろに不要な荷物をデポ。

11時、駐車場を出発する。この時期にしても気温高めですっかり春の陽気。林道の雪も緩んで、時たま踏み抜くのがややこしい。

1時間半ほどで、踏み抜きに我慢できなくなり、わかんを付ける。と、後ろから元気な若者たちがやってきたので、喜んで先を譲る。

出発から2時間で林道も終わり、堰堤をいくつか越えていく。

と、さっきの若者が雪の真ん中で立ち往生している。

近付くと、1人が右足を太ももまで、雪でシャーベット状の川に突っ込んでいる!(中嶋さんはワカサギ釣りでもしてるのかと思ったらしい。んなわけないでしょ!)

聞くと、下が川と気付かす、トレースを辿っていたら踏み抜いたらしい。たしかに綺麗に川が埋もれていて、我々も迷わずそこを辿っただろう。

一歩間違えば、うちの誰か(おそらく先頭を率先してくれていた檜垣さん)が同じ目にあっていただろう。おそろしや〜。

このお兄さん、わかんが引っ掛かってなかなか足が抜けず、おそらく10分以上浸かっていると思われる。なんとかわかんのヒモを切って脱出した模様。可哀そうに

その間、我々は別のルートを探す。少し下流はまだ雪がしっかりしていたので、そこを渡った。

が、ここから「渡渉」という難関が、幾度となく立ちはだかる。その度、2パーティで協力して、道を探し突破する。

若者二人にはザックを運んでもらったり、大変お世話になった。私は2回、川に足を突っ込んだが、幸い靴の中まで濡らさず済んだ。

 

 

出合小屋にはなかなか着かない

N嶋リーダーの「赤岳鉱泉行くよりラク」という言葉を鵜呑みにして、ビールロング缶2本に焼酎500ml、そして野菜も多めに持ってきてしまったことがつくづく悔やまれた

そして4時間半弱掛けて、15:20、出合小屋にようやく到着。

 

 

本当はそのまま上に上がる予定だった若者2人も、「ワカサギ釣り事件でびちょびちょになってしまい、結局ここに泊まるとのこと。

小屋にテントを張り、衣類を乾かしていた。我々はテントを持ってきていないので、とりあえず場所を確保し、明日の偵察へ。

小屋からすぐ、右に分けるトレースは赤岳天狗尾根に向かうもの。小屋から10分ほど登ると、「赤岳・権現岳」の分岐の看板現れる。

ここからまっすぐ沢に続くのが権現東稜、右に行くトレースがツルネ・旭岳に向かうものだろう。

右にしばらく進むと左の尾根上に続くトレースがあった。

檜垣さんのGPSでもこの尾根が旭岳東稜であることが確認できたので、木を差して印にし、小屋へと帰る。

小屋近くの川で水を取り、ようやく夕食。明日は一日で旭岳東稜を抜ける予定だが、小屋に戻るころにはヘロヘロで大して飲めないだろう。

景気よくビール3缶空け、勢いづいて最後の1缶まで空けそうになるが、ここは思いとどまり、焼酎に切り替える。

先程の若者2人は、3時発で赤岳天狗尾根に行くとのこと。我々も明日に備えて19時半には就寝。冬季小屋は広くて寒いものだが、暖かく快適だった。

 

3/21()

5:00 出合小屋

5:30 旭岳東稜尾根上

8:40 五段の宮取り付き

10:50 旭岳頂上

11:45 ツルネ

13:30 ツルネ尾根終了

14:00 出合小屋

2時頃、若者2人の朝食(おそらくチキンラーメン)の匂いに包まれながら、ウトウト。3時半に起床。

昨日はグズグズだった雪もしっかり締まっている。わかんは置いて、アイゼンを装着し、5時に出合小屋を出発。

昨日確認した尾根へと上がるトレースを辿り、急斜面を登って行く。尾根上に出る頃にはすっかり明るくなった。

ここで、GPSを見ていた檜垣さんが「隣の尾根に上がってしまっている。GPSによると左の尾根が旭岳東稜で、今居るのがツルネ東稜らしい。」と言う。

ここまでの斜面はかなり急で結構悪かったが、ツルネ東稜ってこんなに悪いの??

途中、一カ所左に分けるトレースがあったが、上で繋がると思い気にしなかった。中嶋さんが下って確認するがやはり途中で切れているとのこと。

トレースと地形から考えて、どう考えても今居る尾根で正しいと思うが

「これと信じて登ろう」と決めたところで、檜垣さんがGPSを再起動すると、現在地が旭岳東稜上に乗った。GPSは便利だが、過信は禁物ですな。

 

 

 

 

安心して急な尾根を登って行く。昨日のように踏み抜くことなく、檜垣さんを先頭にぐんぐん登る。

天気も良く、快適な登り。右に赤岳天狗尾根がきれいに見える。

尾根上に出てから1時間ほどでナイフリッジが現れる。

新雪だったらロープが欲しいところだが、しっかり締まっているので、ノーロープで難なく通過。

 

 

しばらくナイフリッジが続き、また広い急な尾根を登って行くと、核心の「五段の宮」が見えた。名前通り、岩が5段になっている。

かなり難しく、左に巻けるがそれもヤラしいとか色々ビビらされていたが、雪はほとんど付いておらず岩が露出しており、中嶋さんも少し安心した模様。

 

 

8:40、準備を整え、中嶋さんのリードで登り始める。するするロープが伸び、5段のうち、3段登ったところで切る。

今回は3人なので、私と檜垣さんはダブルロープでそれぞれ引き上げてもらう。

ビビらされていた割には難しくなかったが、途中、持った木が折れて、一度テンションかけてしまった。情けなや〜。

支点はほとんどないので、一カ所カムを利かせていた。

岩登りっぽいのはここまでで、45段は草付き混じり。5段を越えた後、雪庇の上を歩く方が怖かった。

 

 

次のピッチも雪庇の踏み抜きに気を付けながら進むと、前方にもう一つの岩場が見える。

正面も登れそうだが、左の雪のバンドを辿ることも出来そう。中嶋さんはしばらく悩んだ後、左から登って上で切る。

ここから雪稜を30mほど歩き、10:50、旭岳頂上へ。

富士山方面は雲が掛かり、あいにく富士山は拝めなかったが、無風の中、我々パーティで東稜を独り占め出来、快適だった。

下るツルネ東稜もしっかり見えているし、安心安心。ビバークさえ覚悟したが、好条件に恵まれ、早く帰れそう。

となると、ビールを1本しか残さなかったことが悔やまれるが、まだ焼酎が900ml丸々残っているので、良しとしよう。

 

 

 

 

しばらく休んで縦走路を赤岳方面に40分程行くと、「ここはツルネ、出合小屋」の看板が現れる。

 

 

 

いよいよ気温も上がり、踏み抜きがうっとうしくなるが、足の置き場もないほど踏み抜かれまくっている斜面を下っていると、どうでも良くなってくる。

半ば投げやりになりつつ、えっこらえっこら下る。

途中、右の尾根に迷いやすい箇所が何カ所かあった。(「左、左を心がけて下った方がいいでしょう。」N嶋リーダー談)

幸い、視界はいいので、地形とリボントレースを確認しながら下って行く。途中、登ってきた今日初めての別パーティに会った。

 

 

ツルネから2時間弱で尾根を下り、沢筋のトレースと出合う。後はトレースを辿り、14時に出合小屋に戻る。

小屋の周りはテントがたくさん。東面は人が少ないと思っていたので、盛況ぶりに驚く(西面に比べれば静かなもんですが)。

小屋の中も、昨日のお兄さんとは違う空っぽのテントがひと張り。年季の入ったいかにも山屋風のおじさん2人を含む67名の団体も宴会準備をしている。

どうやら昨日のお兄さんは、テントがあるならと追い出されてしまったらしい

我々は金曜からだったので、間違いなく小屋から溢れることはないとテントを持って行かなかったが、土日で行く人はテントを持って行った方がいいでしょう。

一息ついたところで、ビールで乾杯!1本だけでも残しておいて良かった。即効無くなり、焼酎に移る。

飲んでばかりいるとご飯が食べれなくなるので、早めにラーメンを食べておく。小屋はテントと違い、背筋も足も伸ばせるし体にはとてもいい。

前回の大山ユートピア小屋に続き、すっかり小屋泊まりに味をしめる

次第に、向かいの6人組の酒も進み、会話もヒートアップ。

労山の仲間同士らしく、迫力ある年配の二人は無酸素で8000mに登った経験があるとか、お二人の武勇伝についつい耳がいってしまう。

ナンガ・パルバットでヘルマン・ブールのピッケルを発見したこともあるらしい。

ネットで調べると出てくるよ、とのことだったので、後で検索したところ、なんとヘルマン・ブールのウィキペディアでお名前を発見した。

さすが、第一印象からして、一般人とは違う山屋の匂いをプンプンさせていただけある

この方は長野県佐久市の方で、旭岳東稜と権現東稜に毎年代わる代わる登っているらしい。

70歳近いというのに頭が下がる話です。

地元ならではのおすすめルートを伺うと、No.1が旭岳東稜、No.2が権現東稜、No.3が天狗岳東壁らしい。(天狗岳東壁はマイナーであまり紹介されていないルートとのこと。)

たしかに今回登った旭岳東稜はアルパインらしく、とても良いルートだった。

権現東稜はそれより行程も長いし、岩も支点がないらしく、全体的に難易度は上がるが、是非挑戦してみたいと思った。

「大阪の人も飲みなさい」と幾度となく焼酎を進められ、「うちもありますから」とお断りするが、最終的には分けて頂いた。ありがとうございます。

そんなんで、お互い酒も無くなり、19時前には寝床の準備。

寝に入ったところで、空っぽのテントの主が帰ってきた。

 

3/22()

6:30 出合小屋

8:50 美し森駐車場

12:05 清里駅発

17:00 新大阪

ふと目が覚め、時計を見ると222分。労山組は2時に起床と話していたので、他人事ながら心配になるが、2時半頃には起きた模様。

4時頃出て行った。我々は下るだけなので、4時半に起床し、のんびり準備して6時半に出発。

外のテントを含め、みんな登りに行ったようで、下るのは我々だけだった。

関東からだと日曜登って帰ることも可能だろうが、大阪からはキツイ話です

朝なので雪が締まっており、アイゼンも付けず快適に歩く。渡渉箇所もすっかり水が引いて普通に歩ける。

昨日、労山のおじさんが「は?渡渉?」みたいな反応だったのもうなずける。おそらく前日の木曜の雨で、雪解け水と合わさってかなり増水していたのでしょう。

「ワカサギ釣り事件」の現場も、そんな悲痛な事故があったのが嘘のように、すっかり水が引け、雪に埋まっていた

というわけで、楽々45分ほどで林道に出る。

ここで清里からの時間を確認すると、8:51の次は10:05、でその後が12:05…。恐るべし小海線

小淵沢でお風呂に入るか、それとも清里駅から美し森とは逆方面に歩いて30分ほどだという「天女の湯」に行くか相談。

風呂は10時からで、少し待つことになりそうだが、わざわざ小淵沢で途中下車してまたタクシーで行くのも面倒くさかろう、という話になり、「天女の湯」に行くことにする。

今日も気温が高く、林道に入ると踏み抜くようになる。この「踏み抜き地獄」には最後までイライラさせられた。

固そうな細い一本道から少し外れると、容赦なく踏み抜くので、気を付けながら歩き続け、8:50に美し森駐車場に到着!!

行きに聞いておいた八ヶ岳観光タクシーに電話をすると、すぐ来てくれるとのこと。

昨年12月に中嶋さんが赤岳天狗尾根を登った帰りは、タクシーが出払っていて、駅まで歩いたらしいので、ラッキーだった。

ひとまず駅に荷物を降ろし、帰りのチケットを購入。指定席が取れたので、これで安心。

待たせておいたタクシーに再び乗り、5分ほどで「天女の湯」へ。10時の営業開始までしばし中で待たせてもらう。

10分ほど早めにオープンし、風呂でさっぱりする。上のレストランで12:05の電車まで時間を潰そうと思っていたが、なんと11:30から営業とのこと

清里駅周辺のお店は土産物が数件開いているぐらいだったので、どうしたものか

仕方ないので、駅から少し離れたセブンイレブンで買い出しして、昼食は駅弁で済ませることにし、タクシーを呼ぶ。

15分ほど待たされてきたタクシーはさっきと同じ運転手さんだった。

セブンに行く前に通りがかった駅前で、飲食店が開いているのを発見したので、そこで降ろしてもらう。

早速ビールを注文すると、まさかの売り切れ。恐るべし清里。さっきの風呂の自販機で飲んでおいで良かった

無いものは仕方ない。昼食を食べ、小海線に乗り込み、小淵沢まで。ここから普通列車で塩尻へ。

うやく酒類をゲットし、今回の山行の成功と、次の山行に思いを馳せながら、新大阪にたどり着いたのが17時過ぎ。

やはり大阪からは日曜登って帰るのは厳しいですな

 

装備

ワカン、ダブルロープ2本、カム数本(結局使ったのは1本だけだが、支点はほとんどないので、数本用意した方がいいでしょう。)

シュリンゲヌンチャク10本ほど(木で取ることが多いので、長めのシュリンゲが便利です。)

アックス(中嶋さん、檜垣さんはアックスとピッケルをダブルで用意していたが、二人とも結局使わず、1本で十分だった。雪が付いていると2本要るかも。)

テントは持たなかったが、土曜から入る場合は出合小屋がいっぱいの場合に備えて、持っていった方がいいでしょう。

 

文章/小林