4/29-5/2 剱小窓尾根

メンバー/べたこ、小林

今年のGWは夏に一緒にスイス遠征に行くべたこさんと親睦を深めるため、二人で小窓尾根に行くことに。

 

4/29()

9:17新大阪

12:29富山

13:04地鉄富山

13:22上市

15:15馬場島

混んでいると思った金沢行きのサンダーバード、予想に反してガラガラでびっくり。べたこさんと朝からビールで前祝。

3月開業した北陸新幹線のせいで、サンダーバードは金沢止まりになってしまったので、金沢から北陸新幹線に乗り換えて富山まで。

ホームに降りると、地元TVから北陸新幹線開通に関するインタビューを受けた。

「大阪からは乗り換えの手間が増えただけで、いいこと無し」と、

大阪の山屋を代表して、しっかり文句を言っておいた。(放映されたかは知りませんが。)

ずっと工事中だった富山駅前もすっかりきれいになり、お土産物屋も大混雑。

天気も良くて春どころか夏の陽気。今回は軽量化のため、ビールは我慢するつもりだったが、陽気に誘われて1本持つことにする。

地鉄に乗り換え、上市まで。110円払った特急は素敵な座席で、旅行気分が盛り上がる。

上市からタクシーで馬場島まで・・・のはずだったが、一部雪崩れそうな場所があるということで道路は完全開通していなかった。

剱青少年研修センターのゲートから約6km歩かねばならない。

ゲート前で、地元の夫婦に声を掛けられて、一緒にふきのとうやノビルを摘む。

1時間半弱歩いて、馬場島に到着し、県警で手続き。

3日前に下ってきたパーティによると、心配な白萩川のタカノスワリは雪渓沿いに歩けたとのことだが、ここ数日ずっと気温が高い。渡渉が心配。

駐車場近くの倉庫みたいな建物の軒下にテントを張り、ひとまず馬場島荘でビール。

ゲートが開いてないせいか、泊り客も居ないみたい。

遅れてもう1パーティ到着し、テントは私たちと合わせて2張りだった。

要らないものは馬場島にデポするので、今日は豪勢に100g千円!の肉にさっき摘んだ山菜も入れてすき焼き♪。

下界でもこんないい肉買いませんで〜。とろけるお肉に山菜の苦味がアクセントになって、激うまだった。

 

4/30()

5:30馬場島

8:45雷岩

11:25小窓尾根1614m

13:451990mピーク

3時半起床。チキンラーメンで朝食。隣の4人組パーティは早月尾根を登るらしい。

べたこさんはビール2本持つつもりだったが、昨日さらに1本残してしまい、私のビール1本と合わせて計4本・・・。

テント本体とコッフェルはべたこさん、テントのポールとロープが私、という分担だったが、私がビール3本持ち、ほぼ均等の重さに調整。

軽量化に励んだはずが、台無しである・・・。ずっしりくるザックに先が思いやられる・・・。

5時半に馬場島を出発。早月尾根登山口と別れ、大窓方面の林道を行く。

橋を渡って、1時間ちょっとで取入口の堰堤へ。

夏に小窓尾根を越えて、池ノ谷へ行ったときは、ここから左の尾根の巻き道を行ったが、雪で埋まっている。

向かって右の左岸側に渡ろうかとも考えたが、水量多く、渡渉できない。

巻き道の雪の斜面をトラバースして堰堤を越え、川に戻ることにする。

ここの斜面で滑ったら、白萩川の激流へドボンなので、ピッケルとヘルメットを装着。

堰堤を越え、雪渓に戻ろうとしたが、歩いて下れるような感じではない。(沢登りではよくある話・・・)

上を見ると、尾根にリボントレースがあったので、夏道に上がることにする。

尾根道まで5mちょっと。急な泥壁だ。落ちたら川にドボンだし、ロープが欲しいところだが、ハーネスさえ付けてない。

こんな斜面で今更準備出来るわけ無く、試しに登り始めてみると、泥壁と思っていたが下には一枚岩が。

冷や汗がどっと出る。が、今更戻れない。

木の根も生えてないので、足はスメアで耐え、泥部分にピッケル打って、微妙なバランスで登り、何とか尾根の枝を掴んだ。

本日の「身の危険を感じたナンバーワン」箇所だった。

続いて登ったべたこさんも一度足がぷらーんとなって、死ぬかと思ったらしい。

出発して1時間半でこの難所。早速精神的にクタクタになる。

一方、べたこさんはアドレナリンが出たらしく、しばらく夏道を行って雪渓に戻ったが、先頭をぐんぐん歩いてくれた。(雪渓に戻る際にアイゼンつけた。)

あちこちにシュルンドが出ていて、繋がっているところを探しながら白萩川を進んで行く。

しばらくすると、小窓尾根末端と池ノ谷が見えてくる。

小窓尾根を右手にさらに少し進むと、正面にでっかい雷岩が見えた。無事尾根の取り付きまで来て、少し安心だが、いよいよここからが急な登りの始まり。

ザックのビールロング缶3本が恨めしい・・・。

 

P4301567

 

P4301572「このルンゼを登る」

 

雷岩の上で休憩後、ルンゼの急な雪渓に取り付く。

かろうじてトレースの名残がところどころにあるが、ステップにはなっていないので、アイゼン利かせながらひたすら斜面を登る。

そういえば、夏に池ノ谷に行ったときもここでバテて大変だった。どうも相性が悪いらしい・・・。

一部夏道に出たりしながら、ただただ尾根をめざし、雷岩から2時間半ほどでようやく見晴らしのいい1614mピークに出た!

 

P4301575「尾根に出た!」

 

正面に剱本峰と北方稜線の岩稜、早月尾根と剱尾根、そして後ろには赤谷尾根と各ルートの好展望に、

今日の仕事はここで終了というほどの満足度だが、予定の幕営地1990mまであと350mちょっと登らなくてはいけない・・・。

尾根に出て日差しがモロに当たる。汗だくで尾根を登って行くが、こちらもシュルンドが出まくっている。

シュルンド越えたり、薮漕ぎしたり、気持ちよく進めない。

尾根に出てから2時間ちょっとの13:45、なんとか1990mピークに到達。

前のテントの跡があったので、そこにテントを張る。

トイレを作りに行ったべたこさん、何か言うので振り向くと、いきなりべたこさんが消えた!

瞬間移動のマジックか!?と思ったら、踏み抜きに落ちただけだった。

にしても2mほどストンと落ちるとは怖かったでしょうに・・・。

大きいべたこさんを引っ張りあげるのは無理なので、ピッケル渡して何とか自力で這い上がってもらった。

雪が解け始めた小窓尾根は罠がいっぱいだ。。。

風も全くなく、空は青空。テントの外に椅子を作って、宴会!ビール3本、重かったけど持ってきた甲斐があった。

美味さ倍増どころか4倍増し!べたこさんはスペイン旅行中のご家族とラインでやり取り。

無線は通じなかったが、尾根に出れば携帯は繋がる。スペインと剱でリアルタイムにやり取りなんて、全く便利な世の中になったもんだ。

 

P4301578

 

ぽかぽか陽気の中、哲学から痔の話と話題は尽きないが、酒は尽きるので、まだまだ明るい5時過ぎ夕飯とする。

すっかり気が大きくなった我々、「明日は早月小屋まで行けるかな。そしたらビール買えるし」なんて、

ビール3本、ウイスキーも私が持っていった分は全て飲んでしまう。

ようやく暗くなり、遠くに町の明かりがきれいに見える。

月明かりが明るく、べたこさんはしばし外でウイスキー片手に星を眺めてたよう。

一方ロマンチックゼロの私は、テントの中で寝袋にくるまる。

「あれは北斗七星かなー、あっちが北かなー。オリオン座はどれかな〜。」

んて言うべたこさんに、テントの中から顔も出さず、

「そりゃ、北斗七星なんですから、北に見えるでしょうよ。オリオン座は砂時計みたいなやつですよ。」と冷たい態度で寝に入る・・・。風がない割には冷えて、やっぱりダウンを持ってきて良かったと思った夜だった。

 

 

5/1()

5:00 1990mピーク

5:40 2121mピーク

9:00 ドーム

13:25 2650mピーク

15:45 三ノ窓

3時起床、5時出発。早速薮漕ぎが始まる。

薮をなるべく避けるため、雪面をトラバースしては急斜面を登って尾根に出て、また薮漕ぎ・・・というのを繰り返す。

40分で2121mピークに出、遠くにニードルを見る。

 

P5011586「中央のとんがりがニードル」

P5011587「ここは右の草つきを登った」

 

トポには「ニードルへは急な雪壁を登り、いったん下って池ノ谷側を巻く」などと書いてあるが、この雪の状態では全くトポは役に立たない。

目の前の状態を見て判断するしかない。うっすら残るトレースを辿り、登れない雪面が出てくれば、何となく踏まれている薮の中を漕いで、また雪面に出る。

次第に岩も所々出てくる。一箇所、ルンゼにトラバースして降りるところに懸垂ポイントがあったので、懸垂した。

また、一箇所悪そうな岩場があったので、ロープを出した。薮、岩、雪面を繰り返し、9時にドームに出る。

背中のビールは1本に減り、食糧も減って大分軽くなったというのに、出発から4時間でなかなかの疲労度。早月小屋までなんて無理。

ここで今日は三ノ窓泊まりだな、ということになり安心。

 

P5011589

 

P5011591

 

P5011592「ドームより」

 

ここからも薮、岩、雪を繰り返すが、急なルンゼ状の雪面を尾根に上がる箇所、中間が完全な氷になっていて、ピッケルは跳ね返されるし、アイゼンも軽く引っかかる程度。

下を見ると、案の定すぱーんと切れ落ちていて、昨日の泥壁同様、「あちゃー」と思う。

べたこさんが先に登ったが、あいにくロープは私のザックの中。氷で出来たポケットみたいなところに手を突っ込んだりして、何とか抜けた。

本日の「身の危険を感じたナンバーワン」でした。

微かな踏み跡を辿って、尾根上を歩いていると、「この感覚、前に感じたことが・・・」と思い始め、「そうだ、槍の北鎌だ」と思い付く。

北鎌より薮だし、トレース無いし、長いけど、お互い「あっちだこっちだ」言いながら、ルートを決めていくのはなかなか面白い。

テント担いで、トポに頼らず、今ある状況で判断して進んで行く、これぞアルパインだろう。(と、自分を励まさないと、もうやってられない。)

 

P5011593

 

P50115962650mピークより、小窓ノ王を見る」

P5011597「まだ登りは続く・・・」

 

松ヤニでベタベタになりながら、13:252650mピークに達する。

ようやく三ノ窓が見えた。隣の岩峰が小窓ノ王だろう。だが、そこまでに至る尾根が良く分からない。

トレースがアップダウンを繰り返しており、べたこさんはそのトレースを行くんだと言うが、

あんな雪面をまた登るだなんて信じたくない私は「そうですか〜」なんて、とぼけて見せる・・・。とぼけたところで、行く道はひとつ。

アップダウン・・・というか正確にはダウンアップダウンアップし、ここからザレ場を少し下って、小窓の王の基部へ。懸垂ポイントがあった。

ここから下の雪面が切れ落ちて先が見えなかったので、懸垂する。べたこさんに先に行ってもらった。

一回懸垂後はクライムダウンで岩の基部まで下った。実際はそれほど急でなかったので、懸垂せずに全てクライムダウンで行けただろう。

そこから岩沿いにひと登りで、15:45、ようやくようやく三ノ窓に到着!!

本日は薮とシュルンドに悩まされ続け、10時間45分行動。久しぶりに心底疲れました・・・。

 

写真:P5011601.jpg

写真:P5011602.jpg「三ノ窓に到着!」

 

本日も前のパーティが残したいいテン場があったのでそこに張る。

一通り落ち着いて、貴重な1本のビールで乾杯していると、小窓尾根からひとり、また一人と30分おきぐらいにバラバラと到着。結局2×2パーティと我々で計3パーティが三ノ窓泊まりだった。

前から泊まってみたかった三ノ窓、テントから遠く日本海に夕日が沈むのを眺め、山にいる幸せを噛み締める・・・。

が、明日は朝イチから池ノ谷ガリーの急な登りが待っている・・・。

まだまだ気は抜けないが、引き続き天気は良さそう!頑張るぞー。明日は馬場島で風呂&ビールだ!

 

P5011609

 

 

5/2()

4:30 三ノ窓

5:30 池ノ谷乗越

7:00 剱本峰

10:1530 早月小屋

13:25 早月尾根登山口

3時起床、4時半出発。夏道を通って雪面に出る。

池ノ谷ガリーに出ようと、トラバースを開始して20歩ほど、あれ、と思うとアイゼンが片方外れている!

昨日も外れてちゃんと調整したはずなのに、何てことだ・・・。

こんな急なところで付け直せないので、一度岩場まで戻ることにするが、アイゼン落っことしそうなので、後ろで待ってたべたこさんに取りに来てもらう。

と、池ノ谷ガリーに落石が!アイゼン外れずあのまま進んでいたら、落石に直撃してたかも。

逆に運が良かったのか・・・。片方アイゼンなしで20歩ほど、慎重にステップ蹴りこんで、何とか無事戻る。

入念にアイゼン装着。もう外れないでね・・・。

気を取り直して、トラバースし急な雪面を登り始める。白馬主稜の最終ピッチぐらいの斜度かと思ったが、幸いそこまででもない。

アイゼンも利くので安心だが、急な斜面が長く続くので、ふくらはぎがパンパン。

10歩進んでは休んで・・・を繰り返し、40分ほどの登りで池ノ谷乗越に到着。最初の難関を越えて少し安心。

 

P5021613「池ノ谷ガリーの登り」

P5021615「池ノ谷乗越からは稜線を登る」

 

ここから本峰までは特に危険箇所はない。基本稜線伝いにアップダウンで1時間半ほど進み、とうとう頂上の祠が見えたときは、久しぶりにウルウルきた。

剱に登るのはもう何度目だろう・・・。剱は登るたびに感動を与えてくれる私にとって特別な山だ。

 

P5021619

 

頂上には誰も居ない。青空と無風の頂上をしばし堪能する。

三ノ窓で一緒だったパーティが到着した頃、お先に下山開始。こちらも雪が少なく、早速岩稜の夏道になる。

別山尾根との分岐を過ぎ、ルンゼの懸垂ポイントへ。

これまでGWや冬に来たときはこのルンゼはびっちり雪で埋まっていたので、懸垂せずバックステップで下った記憶があるが、今回は完全に雪が無くザレザレ。

ちょっと下ってみるが悪い。登り返して夏道を見てみるが、こちらは雪が付いていて鎖も埋まっている。

結局、ザレザレのルンゼを懸垂することにした。

途中で切って雪面まで降りようかとも思ったが、途中のポイントは古いシュリンゲがぶら下がっているだけなので、

結局ロープいっぱい懸垂して、残り数メートル、ザレ場を歩いて雪面に出た。

早月尾根の下り、これまでの経験では、急な箇所もあるが、そういう部分はバックステップで下れば、特に怖い箇所は無い、

という記憶でいたが、今回は雪が少ないので、一部夏道を使ったり、薮を渡ったり、小窓尾根と同様、こちらも厄介。

一箇所、急なカリカリの雪面をバックステップで下り、続いて急な草つきをバックステップで下るところが怖かった。

 

P5021624

 

いつもより慎重に下って、頂上から3時間ちょっと、ついに早月小屋に到着!これで安全圏まで下りて来た!

今日もいい天気で喉がカラカラ。小屋で冷たいオレンジジュースを飲んで、気分爽快。

ここからの下りも長いが、頑張ろう!アイゼン外して、気持ち新たに下り始めるが、こちらも厄介。

夏道から笹を踏んで雪面に出たり、快適に下れない・・・。

どんどん嫌になってくるが、ひたすらお風呂とビールを想像しながら下る。

早月小屋にはテントはひと張りもなかったが、GW本番を迎え、登ってくるパーティに多くすれ違った。

ややこしい下りに心折れかかったが、13:25、ついに馬場島に下山!!ほんと辛かった〜。

登山口にある石碑「試練と憧れ」の言葉が、ずっしりと心に響いた・・・。

馬場島までの車道も1日に完全開通したとのことで、キャンプ客やらで駐車場はいっぱいだった。

馬場島荘まで歩いていると、下着Tシャツみたいなのを着たポテッとしたお兄ちゃんに「乗ってきますか?」と声を掛けられる。

「は?タクシー?」と怪しむ目で聞くと、「そうだ」というが怪しすぎる。おそらく非認可か・・・。

ま、タクシー呼ぶのも面倒なので、風呂の間待ってもらい、これに乗って帰ることに。

久しぶりの風呂と風呂上りに飲むビールは本当に最高だった。

で、そろそろ帰りますか、と外に出ると、さっきのお兄さん、ビシッとYシャツ着て登場。

ちゃんとした旭タクシーの運転手さんでした。先ほどは失礼な態度を取ってすいません・・・。

7750円で上市まで。地鉄に乗り換え、べたこさんにおごってもらったビール片手に、富山まで。

ここで東京に帰るべたこさんと別れ、ひとりぐったりと余韻に浸りながら大阪まで帰った。(翌日から極度の筋肉痛に悩まされたことは言うまでもありません・・・。)

 

感想:次のステップアップのために登っておきたかった小窓尾根。

最近、「数時間歩いてべースを張って、そこから空身でクライミング」というスタイルが続いて

なまった体には20kg前後の荷物を担いで、連日911時間行動というのはとてもしんどかった

だが、体力にルートファインディング、雪面・薮の処理と総合力を試されるいいルートだった。

やはり早月尾根の往復とは数段レベルが上。久しぶりにこれぞアルパインを満喫しました。

 

文章/小林

 

「早月尾根から小窓尾根を見る。長かった〜。」