宝剣岳 サギダル尾根・中央稜 (2018/3/24-25)

メンバー:崎間(L、記)、小林、椿尾

◆概要

 これまで何度か行こうとしてなかなか機会に恵まれなかった宝剣岳中央稜へ、サギダル尾根と併せて行ってきた。天候に恵まれ、サギダル尾根から宝剣岳への縦走は爽快だった。中央稜では積雪に苦しめられ、2ピッチ目までで敗退となったけれど、これぞアルパインというクライミングができた。時期を変えて再訪したい。

◆詳細

3/24(土) サギダル尾根→宝剣山荘

 早朝に大阪を発ち中央道を走る。10時頃に菅の台バスターミナルに到着。11:15のバスを待ってゆっくりと準備する。天気快晴、幸先良さそうだ。12時半、千畳敷カールで登攀装備を装着していると、登山指導員の方から「こんな時間からサギダル登ったら、宝剣山荘まで行けるかなあ。サギダルから宝剣の縦走路は幕営できる所ないので気を付けて。今日は風も強そうだよ。」と言われて焦る。

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<▲千畳敷駅からサギダル尾根>

 15時にサギダルの頭まで着けなかったら極楽平経由で引返すことにして行動を開始する。3日前の新雪にはトレースがあり歩きやすい。途中、2ピッチロープを出し、サギダルの頭に14時頃着。ガイドパーティーらしき3人組が後ろにぴったり付いていて、ちょっと緊張した。彼らはそのまま下山したようだ。

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<▲サギダル尾根から宝剣岳>

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<▲サギダル尾根の途中でロープを出す>

 時間は予定内なので、宝剣山荘を目指す。稜線にもトレースがある。サギダルの頭から宝剣岳までの雪稜歩きは展望よく高度感もあり、風がやや強い事を除けば快適そのもの。宝剣岳の山頂でしばし展望を堪能する。

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<▲サギダル尾根から宝剣岳への稜線>

 宝剣山荘に15時過ぎに到着。近くにちょうど良いサイズの幕営跡を見つけたので、椿尾さんの3テンを設営。風が強いのでスノーブロックを積み増しする。15時半頃に単独の登山者が来られ、隣に1テンを設営していた。

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<▲宝剣岳を臨むテン場>

 テント内で水づくりをして夕食。メニューは僕の手抜きでα米とフリーズドライのどんぶり物。ビールとバーボンを飲みながら春合宿や今後のアルパインについて話す。しかし寒い。春山だと思って油断した。

3/25(日) 宝剣岳中央稜

 4時起床。寒さで余り眠れなかった。一晩中強風が吹き荒れ、テントが倒壊するかと思った。実際、隣の1テンは倒壊したらしく、ポールとヘッドフォンが雪上に無残に放置され、テントの主は小屋に無理やり逃げ込んだ模様。朝食は小林さんの棒ラーメン。手製の乾燥野菜が美味しい。トラッドな棒ラーメンのぬたぬた感は、山の正しい朝食という感じですね。

 乗越浄土から一般道を下り、中央稜を目指してトラバースする。雪崩が心配ではあったがまだ気温が低いため雪は締まっており、なんとか通過。中央稜は一般道から支尾根を2つくらい越えて回り込んだ部分にあり、意外とトラバースする距離が長い。取付きの20m程下の灌木に不要装備をデポ。リードは空身とし、サブザック計2個で取付きへ向かう。

 1ピッチ目、椿尾さんリード。出だしから悪そう。かなり健闘した末、抜け口でロングフォール。幸い無傷で帰還された椿尾さんによると、後半は凍ったルンゼで、アックス1本では厳しいとのこと。選手交代し半ばトップロープ状態で崎間が登る。アックスを1本椿尾さんからお借りし、ダブルアックスのおかげでルンゼを抜ける。残置スリングの巻かれた灌木でビレイ。

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<▲1ピッチ目の出だし>

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<▲1ピッチ目後半のルンゼ>

 2ピッチ目、崎間リード。あまり事前調査してなかったので初登気分。壁には雪とベルグラがべったり付いている。やっとのことで乗越した先に雪しかないこともしばしばだけど、めげずにアックスでガリガリ雪を剥がすと残置ハーケンやクラックが隠れていることがあり、プロテクションを取ってしばしの安堵感に浸る。その繰り返しで、岩、アイス、エイド、クラック、それぞれの技術を総動員したこのピッチは、個人的に今期のベストクライミングとなった。

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<▲2ピッチ目の出だし>

 終了点に全員そろうと既に正午を回っている。予定では、この時間には山頂に抜けるつもりだった。残り2ピッチ、山頂に立てばロープウェイの最終(15:55)には間に合わないだろう。山頂まで行けずとも、オケラクラックだけは登ろうと出だしのハングを越えて様子をみたら、クラックはすっかり雪に埋まっていた。掘り起して進むのは時間がかかりそうなので、ロープウェイの時間も考慮して敗退を決める。正直、2ピッチ目でかなり集中力を消耗したので、雪を耕しベルグラを剥がしながらオケラクラックを登り切る自信がなかった。

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<▲3ピッチ目オケラクラック出だしのハング>

 懸垂2回で取付きへ戻る。1回目はオケラクラック下の灌木から2ピッチ目終了点の灌木まで30m程。2回目はそこから60mいっぱいでちょうど取付きのザックデポ地点に到着。13時半。撤収して下山し14時に千畳敷駅着。ちょうど臨時便の14:15発のロープウェイに間に合い、登山者で賑わう快晴の千畳敷カールを後にする。

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<▲千畳敷カールを喜々としてラッセルする小林さん>

レジェンド宅訪問

 下山後、甲斐駒の赤蜘蛛ルートを切り拓いたレジェンド、井上氏が営む食堂へ訪問した。この日は既に店じまいされていたものの、小林さんの巧みな外交手腕により晩酌中の氏と1時間ばかり貴重なお話しができた。

 ルート開拓に関する話題、プロテクションについての考え方、山と仲間について、などなど、話題は尽きない。飲み物やお酒のつまみもご馳走になり、どうもありがとうございました。一番印象に残っているのは「他人のスタイル批判なんてせず、自分がやりたいという山をやればいい」という言葉。実際そのように実行してきた氏の言葉だけに、重く暖かく心に響く。  

◆感想

 中央稜は完登ならずでしたが、信頼できる仲間とともに、快晴の中での緊張感あふれるクライミングができたことに感謝します。

 3000m近い標高でアルパインクライミングができ、短時間でアクセスできる宝剣岳は貴重なエリアだと感じます。ちょっと交通費が余分にかかりますけども、時間のない社会人クライマーには最適なエリアかもしれません。宝剣岳の岩は硬く、節理が多くあるので、カムやナッツを使ったクライミングがもっと出来そうです。

 地元の有識者によると中央稜のもっと左にある「左フランケ」は過去に人工で登られていますが、現代のカムとクライミングシューズならばにクラック沿いに登れそうなルートがあるとか。ここもぜひ、訪れてみたいです。

◆備忘録

文章:崎間(2018/3/30)