救急法講習会

期間 2019年6月22〜23日
メンバー 森田 小林 中嶋 平野(記) 船戸 大村 西川、他
カテゴリ 各種トレーニング
ルート
行程

詳細

 救急関連の講習会に参加したのは3回目。今回は登山に特化したもので、2日間にかけての講習会は初めてになる。

【講師】悳(いさお)秀彦氏(日本山岳協会遭難対策専門委員)

【学習の目標】

1) ファーストエイドの目的と初期対応の重要性がわかる
2) 急病の警告徴候、初期対応がわかる
3) 緊急性が高い傷病者の評価と応急手当が出来る
4) 登山中の小さなけが、トラブルの評価・観察・初期対応が出来る

以上が出来るようになるため、ロールプレイングを交え講習が進められた。

22日

『ファーストエイド』とは、急な病気をした人を助けるためにとる最初の行動だという説明があり、事例を挙げながら皆で考え、実技を交えながら進行した。

事例1:脳卒中
意識状態が悪い場合や嘔吐が疑われる場合は回復体位をとる。
これに対し、脊椎損傷が疑われる場合はハイネス体位をとる。

事例2:熱中症
1度から3度までの分類があり、1度の段階で本人や周りの者が気付き対処することが重要。
対処法は、太い血管を冷す。経口補水液を飲ませる。水を体に掛ける(冷水だと体表に近い血管が収縮するので逆効果)。
脱水のチェック方法は、爪を押さえて白くなったのが戻る時間の観察や、汗をなめてしょっぱくないか確認する。

事例3:糖尿病・低血糖
顔面蒼白、冷や汗、意識レベルの低下、甘酸っぱい息
対処法は、ぶどう糖を与える。

事例4:高山病
頭痛、疲労、吐き気、悪寒。症状は急に天気が悪くなった時(気圧低下)や夜中に出易く、脱水との関係が深い。評価は3段階。
予防法は、水分摂取に心掛け、腹式呼吸をする。
対処方法は、アスピリン系の薬を飲ませる。

事例5:急性心不全
胸が締め付けられるような痛み、そのうち肩や腹部にも痛みを訴える(放散痛)。初日の午前中に起こりやすい。
対処法は、心肺蘇生、AEDによる除細動。死戦期呼吸している場合は直ぐに心肺蘇生を行う。呼吸をしていてもAEDを貼って準備をしておく。

事例6:転落
全身観察をする。緊急時のポイントは半袖・半ズボの範囲を重点的にチェック。眼・鼻・口・耳など部位から出血していないか確認。
対処時は、横から声を掛けると、声の方を向こうとして頸椎を2次損傷する場合があるため、正面から声を掛ける。体をまっすぐにさせる時には頭を支えながら行う。

事例7:頭を強打
観察時には、意識、嘔吐、痙攣、視野、頭痛、パンダ目がないか。意識障害が出ないか24時間は経過観察が必要(オーバーナイトオブザベーション)

事例8:大出血
両方の手のひら大で約100ccの出血量。600cc位までなら問題無い。
対処法は、ほとんどの場合直接圧迫で止血出来る。その際、途中で指をずらしたり、緩めたりしないで骨に向かって圧迫するが、動脈の場合で約6分間は必要。ガーゼは濡れたら効果が落ちるので新しいガーゼを重ねていく。深い裂傷の場合は、患部にガーゼをいっぱいに詰め込んだ後、3分間直接圧迫を保持する。外出血を止血出来ない時は止血帯を使用する。
壊死までのタイムリミットは、神経系で4時間、筋肉系で8時間。

23日

事例9:筋痙攣
筋疲労や脱水が影響している。水だけを飲んでいると、電解質が薄くなり、脳が排尿を促す信号を出し、かえって脱水を招く。
対処法は、ストレッチとマッサージ。

事例10:応急手当
応急手当前の観察・評価が重要
DOTS評価、CSNチェック
衣類は『脱健着患』の順で行う。(健側から脱ぎ、患側から着る)

事例11:足首捻挫
I度、II度、III度の評価
テーピングやサムスプリント、バンダナでの固定
日常生活に支障が出ない肢位で固定(良肢位)
出来るだけ自力で下山出来るよう処置をする

事例12:外傷と感染
細菌が傷口から侵入し増殖するのを予防するため、傷口を水で洗う。
方法は、石鹸水で湿らせたガーゼで傷口を洗浄する。取れない場合は軟らかい歯ブラシで落とす。開放性骨折の場合は、受傷部に水をかけると、汚れを中に侵入させてしまう恐れがある為、受傷部の周囲を洗浄し、6時間以内に病院へ搬送する。

事例13:蜂に刺されたら
手当は、口で毒を吸い出すことは厳禁。ポイズンリムーバーで吸い出す。ミツバチの場合は、爪で素早く針をそぎ落とす。石鹸と水で患部を洗い流す。全身に痒みや吐き気、呼吸困難がある場合、アナキラシーショックの可能性が高い。エビペンがあれば、本人に自己注射をしてもらう。

ロールプレイング
4班に分かれ、4パターンのシミュレーションで救急処置を行った。実際の現場では色んな条件が違ってくるので、多くのシミュレーションをしておくことが有効。

感想

 トライアスロン競技のマーシャルをしていて、ランニング中に倒れた男性の心肺蘇生をおこなった経験がある。現場から1.5キロ離れた大会本部に救急車が待機していたため、3分程で救命士に引き継ぐことが出来たが、山中となると難易度は大きく増す。登山という自然界で起こる事故を想定し、限られた条件下で行う救急法を受講出来、大変勉強になった。また、共通する救急法が大半であるが、過去の講習で教わっていたのかも知れないが忘れていることが多くある。たとえば今回受講していなければ『死戦期呼吸』を呼吸有りと判断し、心肺蘇生やAEDのスイッチは押さなかったと思う。休憩中講師に、AEDはメーカーによって特徴があり、VTが有脈か無脈かの判断能力には限界があるため、電気ショック必要無と判断してしまうことがある。そこで人による「意識の有無」「呼吸の有無」の診断を付加することで、AEDがショック不要と診断したとき、呼吸をしていなければ、たとえスイッチを押す勇気が無かったとしても、心肺蘇生は行うべきだと教えていただいた。山中にAEDが近くに有ることはまず無いが、心肺蘇生は可能だ。有脈と無脈の判断に自信が無くても、呼吸の有無は簡単に判断できる。呼吸が無ければ意識も無いことになる。レスキューや救急処置を必要とする場面にはそう出会わないので、講習会は定期的に受講すべきだとあらためて感じた。

文章:平野